つゆだく百合えっち丼 (2)

入道雲がもくもく空に昇っていく。

ありきたりの夏の風景でも、愛しいと感じさせる、青い空に白い雲。

私は白色が好きだ。それも、夏の雲の色が好きだ。

液晶画面もペンキも漂白剤もなかった頃、それはきっと雲の色だった。背景の色に落ちぶれる前、黄土色と緑と青に囲まれ白はもっと輝いていた。泥で汚れた猿だった大昔、彼女の目に映るその色は、私が知ってるそれよりもはるかに美しかっただろう。

ワンピースを揺らし、ビニール袋を抱きしめて、ゆっくりとしたリズムで坂道を下っていく。水滴で濡れた服の胸が半分透けている。入道雲はもくもく空に昇っていく。

 

 「ただいまー!」「あら、おかえり」

「ジュースちゃんと売ってたよ!」「そんなに飲むとおなか壊すわよー」

「いいの!あとで飲むの、お母さんねえご飯まだなの?」「あと5分くらいね」

「いつも、あと5分なんだから。先にシャワー浴びるね」

廊下を走って風呂場の前で服を脱ぐ。換気扇を消してひんやりとしたタイルを踏む。少し薄暗いこのくらいが安心する。

頭から浴びたほのり冷たいシャワーが少しずつ暖かくなっていく。石鹸でおなかから洗い始める。

私はあの子のことを考える。去年の夏に引っ越してしまった、近所のお姉ちゃんだ。小さい頃は一緒にお店屋さんごっこしたり、木に登ってこっそり遊んだりした。楽しかった。引っ越すときに、また会いに来るからねって言ってくれたけれど一度も会えてないな、ってシャンプーもうしたっけな。

私は蛇口を強にひねって最後にお湯を浴びた後、体を拭いて洗濯機に腰を掛ける。ジュースをゴブリと飲む。

パジャマに着替えているとお母さんが脱衣所の戸をガラガラ開けた。

「あーやっとあがったわね。あんた最近、あんまり白い服着ないわよね。」

「最近っていうか、もう白は似合わないなって思って」

「まあ、そう。ごはんよ、早くね」ガラガラ

私は髪の毛を絞ってリビングに向かう。

席に座ると向かいでお父さんが何故かにこにこ微笑んでいる。手を合わせてご飯を食べる。テレビで見かけるような家族団欒だ。私はひと時の幸せを噛み締める。これは夢だと思う。

ご飯を食べ終わった私は自分の部屋に帰りベッドにもぐりこむ。ゲームをポチポチいじっていると、少しずつ眠たくなって意識が途切れてしまう。

 

起きた時、私は裸だった。いつものことであろうと、こんなことはよくないのだと思った。膝枕をされて、私はお姉ちゃんにのぞき込まれていた。その下には白くてぬくい細長い粒が敷き詰められていた。

「やっと起きたのね」

私は寝返りを打ってお姉ちゃんのおなかに顔をうずめた。

「よしよし。大丈夫よ」

お姉ちゃんはゆっくりと脚を伸ばして私の頭をぎゅっと抱いた。

しばらくの間、彼女に撫でられるがままにされていた。私は縋りつくように彼女の肩を倒しながら、ゆっくりと起き上がり彼女の顔を上から覗き込んだ。

「本当に大丈夫と思うの?」

背中が熱くなってきた。汗がどんどん流れ落ちてくる。我慢できずに彼女を強く抱きしめる。彼女は私を抱きしめ返す。

「あのね...」彼女は囁く「離れないでね。」

私は彼女の首にキスをする。横になって目を閉じる。世界がグラグラ揺れてくる。爽やかな風がどこかから吹いてくる。彼女の手を探って握る。強い風と水滴が吹いてきて私は目をこする。私たちはなされるままにしている。そしてそのまままた浅いねむりに落ちていく。私はきっとどこかにはいくのだろう。

 

目を覚ましたらすでに外は明るく、アブラゼミが大音量で鳴いていた。

濡れている気がして股を擦ると、パジャマと白いシーツに赤い染みが広がっていた。

私は、白色が好きだ。

つゆだく百合えっち丼 (3)

 

【(1) と (2) を読んでから読んでください】

 

 

 

こんにちは、旬な話題をお届け、マジカルエクスプレス。

本日のゲストはあのお方、あの百合丼でファーストフード業界を立て直したことでお馴染み松屋の川浦社長に、スタジオまでお越しいただいております。

川浦社長、こんにちは。ようこそお越しくださいました。

「ああ、こんにちは。私も時々深夜にこの番組を聞いております。」

嬉しい限りでございます。

「いえいえ、ほんとこちらこそ」

何か想像していたよりも朗らかで、笑顔が素敵な方でいらっしゃって。

「ありがとうございます。」

早速いろいろと質問させていただいてもよろしいでしょうか。

「ああ、はい。どうぞ。」

早速ですが、百合丼を生み出すきっかけとなったことはなんなのでしょうか。

「それはですね、まあ百合丼がおいしいという話が噂になっていてですね、私はそれを試食し、感動して。わが社はより安価に提供するプロセスを開発したわけです。」

そもそも百合丼って何なんですか?

「まあ、ほとんどの視聴者さんは知っておられるでしょうけれども。百合丼というのはですね、ご飯にかわいらしい女の子二人をのせた食べ物です」

いやあ女の子たちみんな可愛くて、って怪しい雰囲気がしますね。女体盛りとは違うんですか?

「いやあ、全然違いますよ。上に載っているのは品種改良されたマーモセットという猿の一種でございます。」

私は、まだあれが猿だとは信じられないのですが。

「そうおっしゃるお客さんもまだ時々いらっしゃいます。すこし長くなるのですがくだいてお話ししますと、今世紀の半ばに人類進化の基盤となる遺伝子が見つかりました。人間っていうのはチンパンジーと共通祖先をもつわけですが、そこから600万年でかなり形態的にも大きく進化していて。その進化の要因となったものが発見されました。その遺伝子をですね、マーモセットに導入したら、とても見た目が人間に近いものになったわけです」

ほおほお、科学の進歩ですね。

「まあ彼女たちは人間そのものというより、人形に近い形をしていますね。」

ふむふむ

「開発後、ペットとして国内に流通しましたが、少量で大変高価なものであったり西欧からの動物保護団体が抗議に来たりしまして」

いや、でも犬は飼ってるやん。

「そうなんですよ。でも見た目が人間ということで、それは実質人間なのではないかという意見があったりだとか。」

確かに難しい問題ですね。

「ただ。この品種改良されたマーモセットたちには驚くべき特徴があったんですよ。それはですね、メスの背中から分泌する汗が非常に美味であると。それで、特に発情後の汗がおいしいとされています。」

なるほど、ただ商品化は難しかったんでしょうね。

「非常に困難なものでしたが、前例はありました。牛乳と鶏の卵です。鶏卵の場合1個15円ほどで取引されるという効率化がなされていました。マーモセットたちの場合は見る愉しさもあり品質低下も早いということで、店舗まで生体が導入されました。」

なるほど。倫理的にはどう思われますか。

「私としましては、かつて非常に大規模に行われていた牛や豚の屠殺の方がはるかに問題があると考えていますし、会社としてそのようなキャンペーンを致しました。」

だいぶ話が重くなってきましたね(笑)

「そうですね」

ただ、未だに可哀そうという意見がありますが、どうお考えでしょうか。

「彼らは家畜です。見た目が人間に似通っていたとしてもそれに変わりはありません。私たちは他の生き物を食さずには生きていけません。その辺りまで考慮していただければと思います。」

そろそろお時間となりました。

「はい」

本日は、貴重なお話をありがとうございました。

「こちらこそありがとうございました。」

つゆだく百合えっち丼 (1)

疲れた体を引っ張って松屋に着く。傘を閉じて傘立てに置く。午前一杯自習して疲れた。コーシーシュワルツの不等式ってなんだったっけ。小銭を入れて、迷いもせず券売機のボタンを押す。いつもの百合えっち丼(大)とトッピングのさっぱり。お釣りを拾い、食券を店員さんにわたす。

「百合えっち丼をひとつさっぱり、つゆだくで」

「あ、あすいません、も一回」

「さっぱりつゆだく百合えっち丼一つ!」

「ちわっす。」

僕は席について携帯をいじる。タイムラインを3度引き下げて「つゆだく百合えっち丼食べたい」とつぶやいたところで、注文していた丼が来た。

おまたせ、いつもの、こころの救い。写真を撮ってツイッターにアップする「つゆだく百合えっち丼最高」

どんぶりの中では二人の女の子が寝転び抱き合っている。尊い以外の言葉がない。暑くても互いの存在を感じたいと女の子たちは互いの手をしっかり繋いでいる。えっちだ。さっぱり仕様のため扇風機の風が吹いていて、ご飯はぬるいピータイルの温度だ。僕は二人に息を吹きかける。片方の子が目を擦る。起こしてはいけない。箸でつまんで小皿に二人を取り分ける。すやすや眠る二人を見つめながら、僕はご飯を掻き込んで行く。汗がしっかり染み込んでうまい。やっぱり、松屋の百合えっち丼が一番おいしい。コスパよし。リツイートで見たのだが、昔は牛丼なんてものがあったらしい。死んだ動物をご飯の上に乗せるなんておかしな風習だ。ごちそうさまでした、と僕は言って丼と小皿を返却して店を出る。傘を開きながら、二人のハグを思い出して悦に浸る。

あー次の模試日曜かよ、だるいな。